◆ 積立NISAが生まれた背景
平成30年1月から、積立NISAの運用が始まりますね。 そもそも、今までのNISAがあるのに、なぜ積立NISAができたのでしょうか?
理由の一つは、金融庁の想定したNISAの利用が進んでいない事です。金融庁はNISAを創設する時に、積み立てで、投資信託を長期保有してもらう事、資産形成の入り口として、投資の経験をしてもらい、貯金から投資へという意識変化を目指していました。
しかし実際に運用が始まると、「口座開設はしたが、実際の商品購入はゼロ」という非稼働の口座が50%以上。また、積立による利用は、総口座数の1割以下でした。結局、NISAを利用している人の多くは、今までの投資経験者で、未経験者(特に若い人)が新規にNISAで投資を始めた人は少なかったようです。
さらに、金融機関がNISAとして勧める商品は、手数料が高い商品が主流で、顧客の立場に立っていない問題が表面化しました。
今まで、日本では投資教育が行われてこなかったため、金融投資教育を受けた人の無い人が7割もいて、その3分の2が「そもそも投資の知識は不要」と考えています。
(金融庁積立NISA資料より)
極端な言い方をすれば、「これでは金融機関に騙されるのもしょうがない」と言えます。
投資未経験者の資産形成の入り口としての、金融庁のもくろみが、現行のNISA制度では問題があることがわかってきました。
そこで、金融庁は対策が必要と判断しました。
そして、以下の要件を満たす制度として積立NISAが創設されました。
・投資対象の商品は手数料が安いこと
・金融機関に「顧客本位の業務運営に関する原則」の確立を促す
・実践的な投資教育(以下)として、毎月積み立て(ドルコスト平均法)により積立投資・長期保有のメリットを理解してもらう
<<実践的な投資教育>>
一般市民が安定的な資産形成を行うためには、長期の積立・分散投資が有効
• 投資対象をグローバルに分散させることで、世界経済の成長の果実を享受することが可能
• 投資時期の分散(積立投資)により、高値掴み等のリスクを軽減することが可能
• 長期で保有することにより、投資リターンの安定化が可能
⇒ 「長期投資に適した商品を積立投資を通じて、長期で保有することの有効性」を認識してもらうことが重要。
◆ 積立NISAの概要
積立NISAの生まれた背景で書いたように、適切な商品を、積立で長期保有を促進するために、積立NISAは以下のルールが設定されました。
NISAの投資枠120万円について、最初に120万円を入金しないとNISAを利用できないと、勘違いしている人もいました。そのような誤解が無いように、投資経験の無い人にも、NISAで積立投資を気軽に始めてもらうために、年間の投資枠も40万円と少額に設定されました。
投資対象商品も、手数料や管理費用が安く、毎月分配の無い、投資者本位の商品に制限されました。
つまり、今までのNISAと積立NISAは、まったくの別者という事ができます。
非課税投資枠等 |
年間投資上限額:40万円、非課税保有期間:20年間、投資可能期間:平成30年~49年(20年間) |
投資対象商品 |
長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託で以下の要件をすべて満たすもの ○ 信託契約期間が無期限又は20年以上であること ○ 分配頻度が毎月でないこと ○ ヘッジ目的の場合等を除き、デリバティブ取引による運用を行っていないこと ○ 告示で定める要件を満たしていること |
投資方法 |
契約に基づく定期かつ継続的な方法による買付け |
現行NISAとの関係 |
一般NISAと選択して適用可能 |
受付・購入 |
受付開始:平成29年10月1日、買付開始:平成30年1月1日 |
◆ 積立NISAのメリット
・わかりやすさ
積立NISAは、その名の通り、毎月こつこつ積み立て投資を行うものです。投資のタイミングや投資額を気にする必要がありません。(投資枠は40万円/年)
また、一般NISAと異なり、20年後は単純に終了し、ロールオーバーというような複雑な事を考える必要がありません。
ただし、
後述の注意点で書いたように、20年以内に出口戦略(売却のタイミング)は、考えておく必要があります。
・貯めながら増やす仕組み
投資資金が無くても、毎月給料やお小遣いから、こつこつ積み立て投資が可能です。
・運用益が非課税
分配金や売却益が全て非課税なのは、今までのNISAと同じです。非課税期間は20年と長いため、長期間にわたり分配金を非課税で受け取ることが可能です。
・手数料が安い
購入時、保有期間中の手数料が安いものだけが、積立NISAとして認められています。利用者は積立NISAの投資対象商品であれば、安心して投資する事ができます。
(詳細は「積立NISAの対象商品要件」をご覧ください。)
◆ 積立NISAの注意点
・分配金の受け取りと再投資
分配金を再投資すると40万円のNISA枠を使ってしまいます。分配金は再投資せず、非課税で受け取りが良いでしょう。
・商品のスイッチング(Aを売却してBを購入)はできない
商品Aを売却した、投資枠は復活しません。商品Bを購入するには、その年の投資枠を消費します。一般NISAと同様、商品のスイッチング(入れ替え)はできません。
・ロールオーバーは無い
既にNISA口座に投資している場合、それを積立NISAにロールオーバーすることはできません。また、積立NISAで投資した商品を20年後にロールオーバーすることもできません。つまり、20年後に値下がりして、含み損が出ていると、課税強化になる可能性がありますので、注意が必要です
。積立NISAを利用する場合は、出口戦略(含み益が出ている時に課税口座へ移管する等)は考えておく必要があります。
・20歳以下は利用できない
積立NISAは20歳以上でないと、利用できません。今後の制度改正に期待しましょう。
◆ 積立NISAは出口戦略が必要
なぜ、出口戦略が必要なのでしょうか?
積立NISAはロールオーバーがありません。万が一、20年後に平均購入価格より値下がりしていたら、非課税制度が、逆に課税強化となる恐れがあります。
そもそも、NISAは「損益が無かったもの」と見なす制度ですので、損が出ても、他の所得と損益通算ができません。このことは、損がでると、本来、損益通算で減税される部分が、減税されないことになります。結果として課税強化となってしまうのです。
過去の積立投資の統計データでは、20年の積立でマイナスになることは、ほぼ無かったということから、金融庁は20年という非課税期間を設定したようです。
◆ 出口戦略の罠
しかし、積立NISAの口座は1年単位で管理されます。2018年に積立投資したものは2019年に積立投資したものと合算されません。これは、一般に行われる、長期積立投資と異なるので注意が必要です。
一般の長期積立投資は、全ての期間の投資が合計され、損益が計算されます。つまり、5年、10年の積立投資の結果が、プラスかマイナスかという計算を行います。
方や、積立NISAは1年単位の積立投資したものが、5年後、10年後いくらになっているか?を1年ごとの取得価格と比較し、損益が計算されます。(実際にそのように、勘定は管理される)
例えば、10年分積立した商品を全て売却すれば、どちらも同じ損益額になります。
しかし、10年後に2年分だけ売却すると、どうなるでしょう?
売却は古い順から行われるので、2018年と2019年に積み立てたものが売却されます。
極端な例ですが、その2年間の平均取得額が2万円とします。その後の8年間は1万円だったとすると、10年間の平均取得額は以下の計算から1.11万円となります。
80万÷2万=40口
320万÷1万=320口
平均取得額=400万円÷360口=1.11万円
さて、その投資商品が、現在は1.5万円だったとして、40口売却すると、どうなるでしょうか?
一般の積立投資では、平均取得価格との差が、0.39万円のプラスですから、
0.39万円×40口で15.6万円の利益となります。
積立NISAでは、最初の2年の平均取得価格との差が、マイナス0.5万円ですので、
-0.5万円×40口で20万円の損となります。
もちろん、これは数字のからくりで、残りの8年分の含み損益は、逆に20万円増加するのですが、譲渡報告書を見ると、何か損をした気分になりますね。
ちなみに、売却後の含み損益は以下のようになり、積立NISAは含み益が増加しますので、損をしているわけではありません。
一般の積立で、残りの含み損益は
0.39万円×320口=124.4万円
積立NISAの、残りの含み損益は
0.5万円×320口=160万円
ここでのポイントは、積立NISAは20年保有すると、最終的に、特定口座に移管するか、売却するかを選択する必要がある。という事です。
その時点で万が一、単年度での損益がマイナスだと、損をしたような気分になりますが、全体でプラスになっていれば、決して損をしたわけではないということを、忘れないでください。
<< ポイント >>
出口戦略を考えるときに、単年度の口座で損益を考えるのではなく、投資期間全体の平均取得価格で損益を考えましょう。古い年の単年度の口座が、黒字になるまで頑張るというのは、間違っています。
◆ 積立NISAの対象商品概要
積立NISAで購入できる商品は以下の通りです。いずれも、告示で定める要件を満たしていることが前提です。詳細な商品の要件は「積立NISAの対象商品要件」をご覧ください。
いずれの商品も、金融庁に届け出が義務付けられていて、安心して長期積立投資ができるようになっています。実際に購入できる商品は、各金融機関で異なりますので、NISA口座を開設した金融機関で確認してください。
・投資信託
指定インデックス投資信託
(指定されたインデックスに連動する一定の投資信託)
指定インデックス投資信託以外の投資信託
(マーケットから継続的に選択・支持されている一定の投資信託)
・ETF
指定されたインデックスに連動する一定のETF
◆ 積立NISAと一般NISAは、どちらか一つを選択
積立NISAと一般NISAの投資は、どちらか一つしか投資できません。利用者は、自分の投資スタイル等を考え、どちらかを選択する必要があります。
どちらが良いのか悩むところですね。
何を基準に選べば良いのかは、「積立NISAと一般NISA比較」で詳細に説明していますのでご覧ください。