結論から言うと、どっちが良いか人によって異なります。
(多くの場合は一括で受け取る方が良いようです。)
DCを受取る場合、税法上、一括で受取る場合は退職金として、分割で受取る場合は年金として扱われ、それぞれの所得として課税対象となります。
つまり、受取り方によって支払う税額が変わります。
一番、税金が安い方法はどうすればわかるのでしょうか?
残念ながら、今のところ、自分で計算するしか無いようです。退職所得控除(注1)と、公的年金控除適用後の税額(注2)が最小となる金額を計算し、一括で退職金として受取る額と、年金形式で受取る額を決定する必要があります。
(注1:退職所得の計算は役員等さまざまな例外規定があります。以下の例はあくまで一般的な例ですので、正確な計算はFPや税理士にご相談ください)
(注2:公的年金はDC以外に国民年金、厚生年金もあり、それらの合計から税額を求める)
それでは、それぞれの税額の計算方法について、基本的なルールを説明します。
◆ 重要なポイント!!
iDeCo (個人型確定拠出年金)を一時金で受け取る場合、退職所得税は累進課税なので、会社の退職金と同じ年に受け取らない方が良い場合があります!!
退職金とiDeCoを合計すると、退職所得控除額を超えてしまう場合は、十分注意してください。
特に退職所得控除後の、課税退職所得金額が195万円を超えると、税率が高くなり所得税も高くなります。
その場合には、iDeCoの受け取りを、翌年以降に遅らせる事で、税金が安くなります。
以下の説明をご覧ください。
◆ 課税対象退職所得計算
最初に課税対象の退職所得を以下の式で計算します。
会社からDC以外に、会社から退職金を一時金で受取っている場合は合計します。
課税退職所得 =(退職金 - 退職所得控除額)× 1/2
◆ 退職所得控除
退職所得控除額は勤続年数に応じて、最初の20年までは40万円、21年目以降は70万円です。
退職所得控除額の計算の表
勤続年数(=X) | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円 × X |
20年超 |
800万円 + 70万円 × (X-20年) |
仮に退職金が2,000万円、勤続年数が30年とすると、以下の計算で、課税退職所得は250万円となります。
(2000万円 - (800万円+70万円×10年))× 1/2 = 250万円
◆ iDeCoの勤続年数の計算方法
退職所得控除は、複数退職金のうち長い方の勤続期間(または加入期間)を使えます。
また、端数は切り上げて1年として計算します。
iDeCoは積み立てた期間が勤続期間の扱いとなりますが、上記の勤務期間と重複している期間は差し引くことになっています。
例1
25歳から65歳まで40年間、同じ会社に勤務し、退職金(DB)をもらったとします。
また、iDeCoは40歳から60歳まで20年間積み立てたとします。
この場合、iDeCoの20年間は勤務していた期間と重複しますので、積立年数は0年間となります。
【重要Point】
但し、
iDeCoを60歳で受け取り、DBを65歳で受け取る場合は、積立年数の調整が行われず、20年となります。
例2
25歳から55歳まで30年間、同じ会社に勤務し、退職金をもらったとします。
また、iDeCoは40歳から60歳まで20年間積み立てたとします。
この場合、もらった退職金の金額が、退職所得控除額より多い場合は、iDeCoの15年間は勤務していた期間と重複しますが、残りの5年間は重複していませんので、iDeCoの勤続年数は5年となります。
しかし、貰った退職金より、退職所得控除額が多い(引ききれない)場合は、以下の方法で重複期間を調整します。
なかなか複雑ですね。
例3
25歳から60歳まで35年間、同じ会社に勤務し、退職金をもらったとします。
また、iDeCoは40歳から60歳まで20年間積み立てたとします。
この場合、iDeCoの20年間は勤務していた期間と重複しますので、勤続年数は0年となります。
iDeCo退職所得税の計算
上記の例で、退職金の受け取りと、iDeCoの受け取りの退職所得税の計算は以下のようになります。
(以下の説明では、復興税の2.1%は説明が複雑になるため、省略しています)
◆ 例1の場合
最初に62歳の時点でiDeCoを受け取ったとすると、積立期間は20年となります。
iDeCoの受取額が500万円とすると、この時の退職所得税は0円です。
40万円×20年 = 800万円
(500 - 800 ) × 1/2 = 0万円 (カッコの中がマイナスのため)
65歳の定年退職時の退職所得控除額は以下の計算で2,200万円となります。
勤続年数と積立期間の重複部分の調整が行われます。
まずDCの見なし積立期間の年数計算をします。
(500 ÷ 40) = 12.5 ⇒ 12年分
勤続年数からみなし積立期間をマイナスします。
40年 - 12年 = 28年
800万円+70万円×8年=1,360万円(退職所得控除額)
65歳で退職金を会社から2,000万円受け取ったとすると、退職所得税は以下のように計算します。
課税退職所得額
( 2000万円 - 1360万円 ) ÷ 2 = 320万円
退職所得税
320万円 × 10% - 97500円 = 222,500円
◆ 例2の場合
55歳で退職時に2000万円受け取ったとすると、勤続年数は30年ですので、以下の通り課税退職所得は250万円となります。
(2000万円 - (800万円+70万円×10年))× 1/2 =250万円
この退職所得税は以下の計算式より、152,500円です。
250万円 × 10% - 97,500円 = 152,500円
さらに、60歳の時に確定拠出年金を500万円受け取ったとすると、以下の計算式の通り、課税退職所得は150万円となります。
(500万円 - (40万円×5年))× 1/2 = 150万円
この退職所得税は5%で、75,000円です。
55歳で受け取った退職所得控除は全額既に使ってしまったので、確定拠出年金の重複していない5年間の退職所得控除(40万円×5年)200万円が控除されます。
例3の場合はどうでしょうか?
60歳で退職時に2000万円、確定拠出年金を500万円、受け取ったとすると、勤続年数は35年ですので、課税退職所得は325万円となります。
(2500万円 - (800万円+70万円×15年))× 1/2 =325万円
この場合の退職所得税は以下の計算式から、227,500円となります。
325万円 × 10% - 97,500円 = 227,500円
【重要Point】
DCを一年遅らせると
仮に、
確定拠出年金を翌年以降に遅らせると以下のようになります。
退職金の課税退職所得
(2000万円 - (800万円+70万円×15年))× 1/2 =75万円
この退職所得税は5%で、37,500円です。
翌年に確定拠出年金500万円を受け取った場合、控除はありませんが
(500万円 - 0 )× 1/2 =250万円
この退職所得税は以下の計算式より、152,500円です。
250万円 × 10% - 97,500円 = 152,500円
退職所得税は合計で19万円となり、60歳で同時に受け取るより、37,500円安くなります。
DCの受け取りを他の退職所得より一年遅らせると、累進税率を低く抑える効果があります。
ここまでくると、相当難しいですね。
よくわからなかった人は、FPに相談ください。
◆ 退職所得税額の計算
次に退職所得税の以下の式で計算します。(退職所得は他の所得と分離して計算します。)
「税額」欄の算式に従い計算した額が、源泉徴収する税額になります
退職所得の源泉徴収税額の速算表 | |||
---|---|---|---|
課税退職所得金額(A)※ | 所得税率(B) | 控除額(C) | 税額=((A)×(B)-(C))×102.1% |
195万円以下 | 5% | 0円 | ((A)×5%)×102.1% |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 | ((A)×10%-97,500円)×102.1% |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 | ((A)×20%-427,500円)×102.1% |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 | ((A)×23%-636,000円)×102.1% |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | ((A)×33%-1,536,000円)×102.1% |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | ((A)×40%-2,796,000円)×102.1% |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | ((A)×45%-4,796,000円)×102.1% |
例えば、課税対象所得金額(A)が250万円の場合の所得税は、以下の計算となります。
(2,500,000円 × 10% - 97,500円) × 102.1% = 155,703円
◆参考情報
(H26/1~)
企業型確定拠出年金は、60歳~65歳の間で終了時期を規約で決める事ができるようになりました。
また、平成28年6月14日の第18回社会保障審議会企業年金部会において、65歳までの拠出した期間を通算拠出期間に含まれることが発表されています。
・年金形式で受取る場合
DCを年金形式で受取る場合は、年金収入として扱われるため、公的年金控除の対象となります。つまり、一般の雑所得より年金控除の分、税金が安くなります。(雑所得として課税されます)
公的年金は年齢と年金額により、年金控除額が以下のように決まっています。控除後の金額が雑所得となり、源泉徴収された税額と比較して、納めなければいけない所得税が少ない場合(取られすぎの場合)は、確定申告をすれば税金の還付(返金)を受ける事ができます。
逆に、計算の結果、追加で税金を払う必要がある場合でも、公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ、その年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合には確定申告の必要はありません。
間違っても確定申告して、不足分の税金を納めないようにしましょう。
◆ 年金で受け取る場合は、以下の費用にも注意してください。
口座管理用が毎年必要です。
また、振込手数料が毎回必要となります。毎月振込と一年毎の振込では、手数料に大きな差が出ます。
重要ポイント 公的年金控除を適正に受けるためには、確定申告が必要
◆DC年金支払い時に所得税が源泉徴収される
所得税法の定めにより、年金の振込時に次の計算式による所得税が源泉徴収されます。西暦2013年1月1日から西暦2037年12月31日までの所得に関しては、所得税に2.1%を乗じた復興特別所得税が、所得税に合わせて源泉徴収されます。
源泉徴収税額 = { 年金の支払額 -(年金の支払額 × 0.25 )}× 0.1 × 1.021 (復興特別所得税)
例えば、その年のDC年金の支払額が120万円の場合は以下の計算になります。
つまり、91,890円の税金が天引きされています。この額は他の年金などを含めた収入に関係無く一定ですので、収入が少ない方は取られすぎている可能性があります。
源泉徴収額 = { 1,200,000 - ( 1,200,000 × 0.25 )} × 0.1 × 1.021 = 91,890円
源泉徴収された所得税額と、一年間の総所得に基づく所得税額との差額について「確定申告」により精算することになります。
雑収入の計算例をみてみましょう。
◆ケース1 65歳以下で、年金がまだもらえない人の場合
年金の収入は120万円です。表から計算すると、以下の通りになります。つまり雑所得は 50万円ですね。
雑所得 = 年金収入 × 割合 - 控除額 = 1,200,000 × 100% ー 600,000 = 600,000円
この場合、他に収入が無いとすると基礎控除等により、先ほどの源泉徴収された91,890円は、確定申告する事でほぼ全て返してもらうことができます。
逆に確定申告しないと取られっぱなしで戻ってきません。
◆ケース2 65歳以上の場合はどうでしょうか?
国民年金(約78万)も受給していると考えると、以下のようになります。つまり78万円が雑所得となります。
ちなみに国民年金も所得税が源泉徴収されていますので、気を付けてくださいね。
雑所得 = 1,980,000 × 100% ー 1,100,000 = 880,000円
最終的にその他の収入なども計算し、基礎控除など各種控除を計算して、所得税を算出し、源泉徴収で支払った額の方が多い場合は、確定申告をすることで取り戻すことができます。
高齢者の方は確定申告の手続きが複雑なので敬遠される方も多いようですが、確定申告しないと税金が返ってきません。頑張って確定申告しましょう。
年金の税額計算でわからない事があれば、FPや税理士、税務署に確認しましょう。